【特別区の論文解説】段落構成は「取り組み3つ」型? それとも「問題解決」型?【2023年Ⅰ類2題目】
特別区Ⅰ類の論文試験は「2題のうち1題を選択する」という形式です。
2023年の2題目はこちらの問題でした。
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我が国では、少子化を背景とした人口の減少傾向や、高齢化の更なる進展等による経済社会への影響が懸念されている中で、社会経済活動の維持に向けた新たな人材の確保という課題が生じています。
こうした課題に対して、特別区では少子化対策等の長期的な取組に加え、当面の生産年齢人口の減少に伴う地域活動の担い手不足の解消等の対策が早急に求められています。
このような状況を踏まえ、人口減少下における人材活用について、特別区の職員としてどのように取り組むべきか、あなたの考えを論じなさい。
今回はこの出題を通して「段落構成の正解」についてお話しします。
目次
論文の構成には2つの流派がある?
大学入試の小論文には定番の段落構成がありますね。いわゆる「問題解決」型です。
①問題提起(誰がどう困っているのか)
②原因(なぜ抜け出せないのか)
③解決策(誰が何をするべきか)
これは公務員試験でもそのまま使えます。キャリサポの卒業生たちもこの構成で普通に受かっています。
ただ、公務員予備校業界でよく使われる独特な構成もあるんです。それが「取り組み3つ宣言」型。
・◯◯のために行政が進めるべき取り組みは3つある。以下述べる。
・第一に・・・・
・第二に・・・・
・第三に・・・・
・これらの取り組みによって◯◯が実現できると考える。
ネットで解答例を探すと、この箇条書きのように取り組みを3つ書くスタイルをよく目にするはずです。
ぜんぜん違うように見える2つの文章構成。一体どっちが正しいのでしょう?
公務員予備校のトレンド「取り組み3つ宣言」型
冒頭で紹介した特別区1類2023年の2題目に対して「取り組み3つ宣言」型で受験者がよく書く答案がこちらです。
【解答例 「取り組み3つ」型】
厚生労働省の統計によると、昨年1年間に生まれた子どもの数は前年より約4万人、5.1%減少して75万8千人であった。出生数が減少するのは8年連続で、統計開始以来最少となった。また高齢化も進んでおり、65歳以上人口は3589万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)も28.4%となっている。
このような状況において、社会経済活動の維持に向けた新たな人材の確保のため、行政が進めるべき取り組みは3つある。以下述べる。
第一に、少子化対策である。現在、児童手当や高校授業料無料化などの施策が実施されているが、これらをもっと手厚くする必要がある。
第二に、地域活動の担い手不足の解消である。学生など若者を地域イベントに招待し、郷土愛や奉仕精神を育むことが大切だ。
第三に、外国人の力を借りることである。すでに特別区には約48万5千人の外国人が住んでいる。彼らが地域活動に参加してくれるように異文化交流イベントを開催し、日本人住民との親睦を深めるべきだと考える。
これらの取り組みによって新たな人材を確保でき、社会経済活動が維持できると考える。
形式としては「正しい」
この答案、一見するとちゃんと書けているように思えますよね。
実際、先に「ポイントは3つ」と宣言して箇条書きのように書くのは役所の公文書でも民間企業のビジネス文書でもよくあります。
社会人になると「結論から書け」とよく言われますが、「取り組みは3つ」と宣言してから並べたり、「第一に、少子化対策である」と要点を述べてから詳しい説明をしたりという点でも、社会人の文章の書き方ができています。
形式としては、まったく問題ありません。
ところが・・・
初心者が真似すると内容の薄い答案が続出
今度は「内容」に注目して、上の答案をよーっく読んでみましょう。
最初の段落から「第二に」の段落までは、問題文の内容をもっと詳しく書いただけなんです。
オリジナルな内容(自分の考え)といえるのは「第三に」からの外国人の話だけ。
採点者(出題者)がこれを読んだら、「だから、それはこっちが書いたことでしょ」と呆れられます。
面接で面接官の質問に対しオウム返しし続ける人を想像したら、いかに滑稽なことかわかると思います。
でも「形式」がちゃんとして見えるために、書いた本人は「内容」の薄さに気づかないんですね。
だから学習段階で「取り組み3つ宣言」型に慣れるのはおすすめしません。薄い内容で満足してしまい、内容が向上しないからです。
問題文に書いてある取り組みでは解決しない
「人手不足だから、子どもを産み増やそう」というのは問題文にもある通り「長期的な取組」です。いま生まれた子どもたちが戦力になるまで20年かかります。
問題文に「少子化対策」とあるのは、「それでは解決できていないから、別の案を出してくれ」という意味であって、「行政の少子化対策を褒めてほしい」ではありません。
事前の知識がないと1500字は埋まらない
もう1つ、「取り組み3つ宣言」型が初心者に向かない理由があります。
それは、事前の知識がないと規定字数を埋められないこと。
上の解答例では出生数や高齢化率などのデータを引用しています。でも、本番で何が出るかわからない公務員試験。事前にテーマを予想してデータを調べて暗記したとしても、それが的中するとは限りません。
予備校の解答例が「取り組み3つ宣言」型で成立するのは、知識の豊富なプロの先生が書いているからです。
初心者には「問題解決」型の構成がおすすめ
初心者が知識に頼らず書けて、しかも内容が深いものになる構成は「問題解決」型です。
2023年の問題でいうと、次のような構成になります。
①問題提起:経済社会への影響とは何か。人材を確保できないとどうなってしまうのか。
②原因分析:なぜこれまでの取り組みはうまくいかなかったのか。本当の問題は何なのか。
③解決策:特別区は何をするべきなのか。
では、それぞれの段落についてもっと詳しく考えていきましょう。
1段落目:誰がどう困るの?
1段落目の問題提起では、「なぜ特別区が(行政が)この問題に取り組まなければならないのか」を明らかにする必要があります。
「なぜ行政が税金使って面倒みないといけないの? 人手不足だったら会社が給料上げるとか、自力で頑張ればいいじゃん」という意見もありうるからです。
すると、具体的な「困りごと」がいくつも出てきます。
・人手不足、後継者不足で黒字なのに廃業する中小零細企業が増えている。
・建設業界では職人の人手不足により人件費が高騰している。
・交通機関の運転手や配送トラックのドライバーが不足すると、消費者はいまでの便利な暮らしが維持できなくなる。
・人手不足のため超過労働になり、事故が起きやすくなる。
・人口減少で消費者も減るので、店や企業が儲からず景気が悪くなる。
・医療従事者などのエッセンシャルワーカーの不足は人命に関わる場合がある。
・地域の消防団、安全ボランティアなどの担い手が減ると、平時の防犯や災害時の共助が成り立たなくなる。
・町内会の加入者が減ると地域コミュニティが希薄になり、孤立・孤独に陥る住民が増える。
この程度なら、行政の知識があまりない人でも300〜400字くらい埋められます。
「誰が減ると、誰がどう困る?」を具体的に考えるのがコツ。問題文の中で「経済」と「地域活動」の2つを挙げていることに気づくといいですね。
2段落目:なぜ抜け出せないの?
原因というと「なぜ人口が減ったのか?」と短絡的に考えがちですが・・・
それよりも1段落目に挙げた具体例をよーっく見てみましょう。
建設業、サービス業、教師・・・これらは「離職率の高い仕事」です。
辞めた人たちはどこに行ったんでしょう??
ここに気づくと、原因の問い方が変わります。「なぜ日本の人口が減ったのか?」ではなく「なぜ職場から人が去っていくのか?」
・労力と給料が見合っていない。
・長時間労働に耐えられなかった。
・職場のハラスメントで心身を病んだ。
・仕事と家庭を両立できなかった。
・仕事内容が自分と合っていなかった。
さらに、辞めた正社員が他社の正社員に転職できていれば全体として戦力は減っていないはずですが、そんなラッキーな人ばかりとは限りません。
・正社員を辞めて非正規雇用になってしまった。
・メンタル不調で働けないまま。
・働きたいのに仕事が見つからないので専業主婦。
・再起する気が起きなくて引きこもり。
教師の休職率の高さは社会問題となっていますが、いまの日本は「人口が減っている」と同時に「戦力になるはずの人を埋もれさせている」社会であるといえます。
話をすり替えているわけではありませんよ! 「人口減少を食い止める」ではなく「人口減少下だからこそ、埋もれている人材を有効に活かさなきゃ」という話です。
町内会や地域の消防団など、地域活動の担い手も同様です。
・賃貸の一人暮らしだから町内会に入る義理がない。
・ワタシ外国人、チョウナイカイ? ヨクワカラナイ。
・町内会は運動会とかの行事に参加させられるのが面倒。
・町内会長とか古い住民との人間関係がウザい。
・どうせ数年でどこかに引っ越すから。
地域の人口が激減しているわけではなく、そこに住んでいるのに地域活動に参加しない人が増えているだけなのかもしれません。
3段落目:独創的なアイデアは不要
ここからいよいよ解決策、「特別区が進めるべき取組」です。
ここでいきなり独創的なアイデアをひねり出す必要はありません。
大事なのは「1段落目と2段落目から自然と出てくる提案」です。
「戦力外になっている人がたくさんいる」わけですから、「戦力外の人を出さない」または「戦力外とされた人が復帰できるようにする」と考えるのが自然です。
べつに画期的なインスピレーションでも何でもありません。「1+1=2」や「雨だから傘をさそう」と同じくらい当たり前の流れです。
・業務を効率化して長時間勤務をやめる。
・職場のハラスメントを防ぐ。
・町内会の仕組みを見直し、参加しやすい活動にする。
・外国人居住者も参加しやすい町内会にする。
などなど。どれもベタですが、その程度で十分です。
まとめ
「取り組み3つ宣言」型の構成で書くと、内容が薄くなりがちです。
問題解決につながる答案を書くには「問題提起→原因→解決策」の順で考えましょう。
公文書やビジネス文書が「ポイントは3つある」という形で書かれることが多いのは、文書を作る以前に問題解決を徹底議論しているからです。
考えることと書くことを同時にやらなければならない試験の論文とは前提が違うわけです。
公務員受験者(特に初心者)には「問題解決」型の構成をおすすめします。
【解答例 「問題解決」型】
少子高齢化による人材不足は日本全体の労働力不足と地域活動の担い手不足という面で顕著に現れている。企業の人手不足は深刻化しており、建設業やサービス業では外国人労働者に頼らざるを得なくなっている。中小零細の製造業では、利益が出ているにも関わらず後継者不足のために廃業しなければならない黒字倒産が増えている。さらに教員や保育士の人材不足によって、子どもを育成する場が機能しなくなる危機に直面している。また各地域では消防団や町内会の加入者が減少している。これらの地域活動が縮小、停滞すると災害時に助け合いが機能しなかったり、平時でも地域で孤立した人々を見過ごすことになりかねない。このように人材不足は国全体の経済にも地域の人々の生活にも深刻な影響を及ぼしつつある。基礎自治体である特別区にとって、早急に対処しなければならない問題である。
これらの人材不足の原因は少子高齢化による人口減少だけではない。特別区でも上記のような人材不足が問題となっているが、東京都の人口はこの10年間でむしろ増えているからである。したがって人口減以前に、少ない人材を活用しきれていない現状を考慮すべきである。まず日本企業は他の先進国に比べて生産性が低いといわれる。仕事の効率が悪いため同じ成果を挙げるために多くの人手を必要とするが、利益が少なく給料を上げられないため働き手を確保することができずにいる。教員不足も同様である。授業以外の雑務や保護者対応等で長時間残業やストレスに苦しみ、休職者や退職者が続出している。そして特別区では地方から転入してきた住民も多く、地域への愛着が薄い。さらに町内会は運動会などの行事や古い住民との人間関係が煩わしく、敬遠される傾向にある。つまり人手不足の本当の原因は企業や地域の運営の仕方にあるといえるのである。
したがって人口減少下で限られた人材を活用するためには、住民そのものを増やすよりも、企業や地域が無駄を省いて潜在的な働き手、担い手が活躍できる環境を作ることが必要である。たとえば区が中小零細企業に対してITやAIの導入を支援し、業務を効率化することが考えられる。また公立学校の教員の業務を軽減し、休職者や退職者が復職できるようにするべきである。そして町内会などの地域活動においては、運動会など親睦のための行事を廃止し、防災訓練など住民の利害に関係する行事だけに限定することが考えられる。役員を固定せず、その都度ボランティアとして参加する形にすることで、「地域に貢献したいが深くは関わりたくない」という人でも気軽に参加できるようになる。以上のように、少ない人数でも回る仕組み、参加しなかった人が参加できる仕組みを作ることによって、人口減少社会においても人材を確保し続けられると考えられる。
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